大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島家庭裁判所 昭和45年(少)1584号 決定

少年 K・N(昭三一・九・三〇生)

主文

この事件について審判を開始する。

理由

本件送致事実の要旨は、「少年はAと共謀して、昭和四五年九月二六日午後九時頃、広島市○○○町○丁目○番○○号国鉄アパート前路上において、○田○平所有の原動機付自転車一台を窃取した。」というにあり、一件によればこの事実が一応認められる。

ところで、少年は、昭和三一年九月三〇日生れであり、この事件が検察官から送致されて家庭裁判所がこれを受理したのは、昭和四五年一二月二二日であることが明らかであるので、上記行為時には少年は一四歳未満であつたが、家庭裁判所の受理時には、すでに一四歳に達していたものである。かかる場合、家庭裁判所は、少年法三条二項に基づく都道府県知事または児童相談所長からの事件送致がなくても審判することができるものと考える。けだし、少年は、法三条一項二号にいう「一四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年」であるが、現在すでに一四歳に達しているのであるから、同条二項にいう「前項第二号に掲げる少年………で一四歳に満たない者」には該当せず、従つて上記児童福祉機関からの送致がなくても家庭裁判所は審判することができるからである。もつとも同条二項にいう「一四歳に満たない者」というのは、その文言上「同項第三号に掲げる少年」のみにかかるとも解しうるのであつて、かかる解釈に立てば、同条一項二号に掲げるいわゆる触法少年については、何歳になつても、児童福祉機関からの送致がなければ家庭裁判所は審判できないことになり、他方、いわゆる虞犯少年については、行為時に一四歳未満であつても、現に一四歳に達している場合には、児童福祉機関からの送致がなくても家庭裁判所は審判しうることになる。しかしながら、触法少年の方が、虞犯少年よりは一層犯罪行為に密着している関係で司法的色彩が濃厚なのであるから、虞犯少年との比較においては司法機関たる家庭裁判所の審判権の範囲内にとり込み易い面があるにもかかわらず、虞犯少年においてさえ、処理時に一四歳に達しているならば、児童福祉機関からの送致がなくても家庭裁判所は審判できるのに、何故触法少年についてのみ、依然として児童福祉機関からの送致がなければ審判できないことになるのか不可解である、そのうえ、少年法は、少年の処遇という面においては、この両者を何ら区別していないのである。しかも保護処分の取消に関する法二七条の二第一項は、「一四歳に満たない少年」と規定し、「一四歳に満たない虞犯少年」とまでは限定せず、触法少年と虞犯少年を区別していない。同条項は、法三条二項の手続の存否に関するものであるから、同条項が両者を区別していない以上、法三条二項の解釈についても両者を区別するいわれはない。この点につき、法三条一項二号および同条二項に「一四歳に満たない」として年齢限界を設けたのは、審判権の範囲を定める便宜のものだけでなく、刑法における責任能力の限界をも加味したものと解すべきであるから、非行当時一四歳未満の触法少年であれば現在一四歳を超えていても、児童福祉機関からの送致がなければ審判できないとする考え方がある。しかし、刑事責任年齢が一四歳とされていることの意味は、その行為時における犯罪成立要件に関するものであつて、当該事件の処理時におけるそれではない。従つて、上記の考え方は触法行為の成立要件に関する法三条一項二号についてはともかくとして、事件を処理するに当つて一四歳に満たないかどうかを問題にしている同条二項については妥当せず、これはまた責任能力とは別個の観点から判断すべきものと考えられる。他方、家庭裁判所の事件処理に当つては、処理時の年齢が基準となることは検察官送致決定について定める法一九条二項、二三条三項に照しても明らかである。

以上のような次第であるから、現に一四歳に達している触法少年については、たとえ行為時には一四歳未満であつたとしても、児童福祉機関からの送致なくして審判しうると考えるので、少年法二一条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 寺田幸雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例